プロパガンダなんて言わないで!
万人の萌えツボをプッシュする一大ショウタイムをとくとご堪能あれ
トランスフォーマー/TRANSFORMERS(2007)監督:Michael Bay マイケル・ベイ出演:Shia Labeouf シャイア・ラブーフ 他
今回、特別企画
「父娘批評対決!」により、映画評論家でもある管理人の父、
松下正己といつもの管理人、松下藍がそれぞれ「トランスフォーマー」について書いています。ちなみに、対決というのはちょっとかっこいいからつけただけで深い意味はありません。
★こちらは松下藍(いつもの人)の記事になります。
松下正己寄稿記事はコチラ↓
「リアリティ・トランスフォーマー」 by 松下正己
【注意】
この記事にはネタバレ表現が含まれています。
鑑賞予定の方の閲覧はご注意ください。
先日、オタクな世界とは無縁の友人に「萌え」とは何かと聞かれ、それを説明するのに難儀した。
色々な言葉に置き換えてみたものの、どうも今ひとつしっくり来ない。「好き」とも違うし「愛」とも少し違う気がする。結局「恋愛感情とはまた別の、愛くるしいと感じるツボ的なもの」と、半ば無理矢理まとめたところでその解説は打ち切った。実際、ほかにしっくり当てはまる言葉がないからこそ「萌え」という言葉はこの数年でこんなに定着したのだろうし、今やいわゆる「オタク」と言われるタイプの人間以外も、普通にこの言葉を使うようになった。そもそも「オタク」という分類さえそのボーダーラインは曖昧だ。
日本が発祥として世界に名を響かせるまでになった「オタク」だが、その根源にある感情は誰しも持っているものであり、それを隠さずむしろアイデンティティとして表に出すか否か、という違いだけだと思う。そのアイデンティティこそが、「萌え」なのだ。ただ、その「萌え」感情を潜在的に抱いていても、それが無意識下であるが故に増幅し表面化することは無く、よって「萌え」とは一体なんじゃらほい、と感じている人間もまた多数存在するというだけだ。
ここでひとつ言いたいのは、オタクと言うのは必ずしも美少女アニメが好きな人だけを指すのではなく、例えば映画オタク、漫画オタク、音楽オタク、ファッションオタク、SFオタク、ミリタリーオタク、カメラオタク、電車オタク、ガンダムオタク、と言った風に、様々なジャンルそのものを大なり小なりクロスオーバーし、その「個人的に定義されたジャンル」に対し、一般の「オタク以外」の人から見れば病的なまでにのめり込んでいる人全てを指すものだと自分は考えている。
つまり「萌え」とは、その自分自身が定めたジャンルに対し過剰にはまり込んでいる際に、そのジャンルに対し浮かぶ一種の執着を伴う愛なんだろうと思う。それは異性間や家族間などで誰かを愛すのとは違い、強烈な所有欲、独占欲を伴うのが特徴だ。「好きだからこそ、持ってたい」「好きだからこそ、集めたい」そういった感情は誰しも抱いているだろう。ただ、それが過剰でありそのターゲットが少し一般的でないときに、たまたま「オタク」と呼ばれてしまうだけなのだ。そしてもう一つ、その所有欲は一方的で自分本位でなければならず、相互の意思疎通が行われてしまったとき、それは「萌え」から「好き」へと変化する。
ここまで読んで、身に覚えがある人は立派なオタクである。オシャレだろうがアニメは見なかろうが関係ない。「萌え」感情を抱いたことがあるならば、それはオタクへと通じる思考なのだ。逆に、ここまで読んでも何なのかサッパリ、な人は、オタク的素質は薄いかもしれない。だが、可能性が全くない訳ではない。何故なら、今や「萌え」は超一流メジャーエンターテイメントとして、オタクも無意識オタクもそうでない人も巻き込んで、全世界を席巻してのけるという業を成功させてしまったのだから。この、「トランスフォーマー」で。
ここで勘違いしないで頂きたいのは、「トランスフォーマー」を監督したマイケル・ベイが必ずしもオタクだとという意味ではないということだ。むしろメイキングなんかを観ていると、彼は今回のディレクションのオファーが来るまでトランスフォーマーを知らなかったようだし、どちらかと言えばメジャー側の人間である。だが、そこがまた良かった。メジャー志向の人間がオタク含むスタッフたちをまとめあげ、作品そのものが持つオタク志向をあえてオタク向けとして調理せず、メジャーの大皿に盛り付けて大衆に差し出す。だが、その細部にはオタク心揺さぶるギミックが至るところに仕掛けられており、それが結局古来のトランスフォーマーファンから全く新しい観客層まで、幅広いターゲットの心を捉えることが出来たのだ。オタクのメジャー化がこれ程までに上手く行った例は過去に類を見ないだろう。
こうまでオタクオタクと言っていると、トランスフォーマーファン以外にとってはどこに心揺さぶる萌えポイントがあるのか、と言われてしまいそうだが、トランスフォーマーそのもの以外にも、その人間の無意識下を揺さぶるポイントはたくさん隠されている。もちろんトランスフォーマー好きは当然として、巨大ロボットが限りないリアリティを持って人間と協力し戦う姿は、ある程度までの世代には夢にまで見た光景だろうし(古くなら鉄人28号とか)、昔からのセオリー通りの、冴えない男子が学園のアイドル的女子と最後恋仲になるというのも多くの男性の心を密かにニヤけさせるだろう。ヒロインがか弱いだけでなく、最後レッカー車を運転し勇敢に戦う姿は多くの女性の声援を集めるだろうし、強くかっこいいだけでなくユーモア味溢れるロボットたちに感情移入することはいともたやすい。そして、「未知との遭遇」へのオマージュなど、映画ファンへのサービスも忘れてはいない。
ここでポイントとなるのは、実は新しいことは何ひとつないということだ。娘が生まれたばかりの父親は家族を愛し、主人公とヒロインは結ばれ、見方のロボットたちは生き残り、諸悪の根源は倒される。誰もが見覚えのある光景を、程よい分量で焦らしつつ見せ続け、最後それらはしっかり集約されハッピーエンドを迎える。いかにもハリウッドらしいセオリーのお手本集のような筋書きだ。脚本に目新しさはないし、むしろセオリー通り過ぎて今時古臭いと言ったほうが合っている。
だが、その古臭さ、当たり前さを差し引いても、尚この映画が「新しい」と言えるところが一つだけある。その映像の限りないクオリティだ。現代のCG技術が可能にした巨大ロボット群は、そこに存在するのが当たり前のようにスクリーンの向こう側から迫ってくるし、手持ちカメラを多用した荒れた画面は、まるでドキュメンタリーを観ているかのような臨場感を与える。
これは、個人的な話になるが「ハリー・ポッター」を初めて観たときの感覚に似ている。子どもの頃、ファンタジーの世界にお決まりのように登場する「魔法」というものに憧れ、実際にもし自分が魔法を使えたならば、どのように使うのだろう、と空想していたものだ。未知であるが故に空想は尽きない。当時の映画の技術は今と比べればまだまだリアリティに乏しかったし、それは自分の空想の領域の、ほんの一片を埋めるに過ぎなかった。だが、大人になり「ハリー・ポッター」を観たとき、まるで本当に魔法が存在するかのようなその映像のリアリティには圧倒された。映画のなかの登場人物たちは、実際に(映画の外でも)魔法が使えるように見えるし、「魔法」自体がまるで本当に存在するかのような、映像の圧倒的な説得力があったのだ。まさしく、映画の「魔法」である。
「トランスフォーマー」も、この映画の魔法を最大限に利用した。郊外の家、高速道路、都会の街並み・・・様々に舞台を変えて暴れまわるロボットたちの存在の説得力は抜群で、観ている間「こんなロボットが本当にいたらいいなあ」とふと童心に返らされる。昔の純真で無垢な心に戻されるのだ。心が無垢になったとき、そこに観たいのは趣向に凝らされ洗練されたストーリーではなく、その時代に心揺さぶられたシンプルかつ明快でハッピーな物語なのだ。
「迫力の映像を観たい」「子どもの頃のわくわくした気持ちを味わいたい」「地球を守る為戦う男女のラブストーリーを観たい」「かっこいいロボットたちの活躍を観たい」老若男女多岐に渡る様々な期待のなかでも、出来うる限り一般的、多数派の傾向を全てすくい取り、出来うる限り一般的支持を得るように、ありがちなエピソードの羅列で構成された脚本と、最新の技術こそ使われているが決して極端ではない映像。全てが出来うる限り「平凡」につくられており、しかしそれら全ては莫大な資金でもって格段のクオリティで完成されている。この傾向は、何かに似ている。そう、遊園地だ。大人から子どもまで、童心に返って遊ぶ為だけに訪れ、そこで求められるのは意外性ではなく当たり前の楽しさだ。そして帰り際、今日の楽しかった思い出に、園内で販売されているグッズを買って帰るところなんかも、映画と平行してフィギュアなどのグッズが爆発的に売れたトランスフォーマーと大いに重なる。
もはやこれは映画として括ることは出来ない。映像やストーリーやフィギュアやなんやらを全てごったにした遊園地であり、映画としての「トランスフォーマー」は、その一大ショウタイムなのだ。そのショウタイムはエンタテイメントとしてのみ存在するという純粋さを合わせ持ち、その純粋さはどこかオタク心に通じるものがある。テーマがどうとか、作品の主張がどうとか、そんなことはどうでもいいのだ。大切なのは映画に対して各々が「萌え」られるかどうかであり、その各個人が無数に抱いている「萌え」ポイントを、出来る限り多く詰め込んだ結果それは「メジャー」として昇華した。
さあ、老若男女、オタクだろうが女子高生だろうが幼稚園児だろうが、何も考えずショウに参加すればいい。このショウには、乗ったもん勝ちなんだから。
2008/02/04
CINEMA
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