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2007年10月の記事一覧

Pan's Labyrinth

強烈な対比が紡ぎだす、ファンタジーとは何かという究極の問いかけ

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パンズ・ラビリンス/Pan's Labyrinth/El laberinto del fauno(2006)
監督:Guillermo del Toro ギレルモ・デル・トロ
出演:Ivana Baquero イヴァナ・バケロ 他


【注意】
この記事にはネタバレ表現が含まれています。
鑑賞予定の方の閲覧はご注意ください。


社会派ダークファンタジー。確かにそう括ってしまえば簡単だ。だがそれだけでは済まされない。ファンタジーとは一体何なのか。ファンタジーとは、何のために存在し得るのか。近年のハリポタを代表するファンタジーブームの影に潜む、ファンタジーの必然について真っ向から描いた文字通りの「衝撃」作。

舞台は1944年のスペイン。内戦終結後、フランコ独裁政権が台頭するなか、今だ山間では反政府ゲリラが抵抗を続けている。
物語は、主人公の空想好きな少女オフェリアが、フランコ軍大尉ヴィダルと再婚した身重の母カルメンとともに、山深い軍事施設へやってくるところから始まる。
だが、二人を迎え入れたヴィダルは冷酷で残忍な男で、妻であるカルメンですら世継ぎを生ませる道具ぐらいにしか思っておらず、オフェリアにも冷たくあたる。
連日繰り返される執拗なゲリラ掃討戦、軍事政権支配下の不安な生活、唯一心が開ける相手である母の体調不良・・・そんな救いようのない状況に無理矢理押し込まれたオフェリアの前に、ある日妖精が現れる。妖精に導かれ辿りついた先で出会った、パンと名乗る羊のような姿をした「迷宮の番人」は、オフェリアに「あなたは地底にある魔法の王国の王女です」と告げる。戸惑うオフェリアだったが、再び王女として王国に戻るために、3つの試練に臨むことを決意するのだった。

こう書くとありがちな、子供向けのお伽噺のようだが、実際は違う。オフェリアが3つの試練に臨み王国へ戻りたい一番の動機は「子供としてどうしようもない現実」から一刻も早く逃れたい、ただそれひとつしかなく、栄光や財宝ではなく、ただただ幸せを掴みたいだけなのだ。それも、人並みに。それは大人から見れば「夢見がちな子供の空想」に過ぎないかも知れないが、子供にとってそれは切実過ぎるほど真剣で、現実に対して唯一抗える武器とも言える。そういった大人と子供のそれぞれの世界、それぞれの戦いが対比的に描かれながら物語は、進む。そう、これは対比の物語なのだ。大人の事情と子供の事情、現実世界とファンタジーの世界。そしてそれはただ対比的に描かれるだけに収まらない。片方の世界にもう片方の世界の存在は必然であり、お互いは依存し合ってこそリアリティを増し、そして現実がファンタジーを生み、ファンタジーが現実を凌駕する。どちらも真実であり、何を信じ何が幸せなのか、そういった切実な問いかけを残して物語は終焉を迎える。あなたは、これを観て何を感じたか。それは直接自分へと返される本当の答えなのである。

また、アカデミー美術賞、メイクアップ賞を受賞したという美術は秀麗でセンス溢れるものに仕上がっている。決して手の込んだVFXや見事なCGというわけではないが、それが逆にこの映画に於けるファンタジー=空想世界という世界観を現すのに一役買っている。ファンタジー世界に必要なものは決して即物的なリアリティではなく、いかにその世界がそこに存在しているかのように感じられるか、もっと言えば観客の想像力をどこまではばたかせることが出来るか、に尽きるからだ。
ハリポタのように整然とした夢溢れる世界では決してなく、むしろ禍々しく異臭を発していそうな世界観は、どちらかというと「サイレント・ヒル」やクローネンバーグ作品の造形に近い。2番目の試練に登場する子供への欲望をもつクリーチャー、ペイルマン(画像)の造形は特に秀逸で、動き出す前から何とも言えない不安感を掻き立てる。欲を言えばファンタジー要素をもっと見たかったが、この映画のテーマのひとつである現実との対比を描くうえでこのウェイトに絞らざるを得なかったのだろうか。それとも、インディペンデント(!)の低予算映画ということで、ここまでが限界だったか。

また、他のレビューでもよく言われているが、決して子供向けではない、というより完全に大人向けなので、子供連れでの鑑賞はお勧め出来ない。むしろ下手をすると結末は子供にはトラウマになりかねないので注意。ホラー映画ではないが拷問や暴力シーンなど残酷描写もかなりあるので、そういったものに免疫のない方も注意だ。




【以下、本気でネタバレが含まれます。この映画は結末に対し何を感じ何を受け取るかが、最も重要であり制作者の意向でもあると考えておりますので、まだ観ていない方は絶対に読まないで下さい】

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